コミックマーケット92 頒布物総括


2017/8/13 当スペースにお越しいただきありがとうございました。
頒布物は昨年同様オリジナルカレンダー(1,500円)と、今回始めて製品化に着手した星座早見盤(1,500円)でした。

双方とも、当サークル制作・所有の暦計算プログラムから、JavaScript・Canvasを用いて描画されています。

星座早見盤はフルカラーなことに加え、PCやスマホの普及した現在では影を潜めている道具であることからか想像以上に注目され、ご購入されたそのほとんどが幼少期に使った記憶を懐かしまれていた方々でした。
作り上げるまでに多くの手数と高い精度が必要とされる品であり、かつ初めての頒布物であったため数を十分にご用意できず、完売した後に「欲しかった」「狙っていた」と告げられるのはなんとも嬉しく、そして悲しい体験でした。数量確保は急務のこととして、己の内面に燻る課題を綿々と解決しつつ、若い方々にもフレンドリーなアプローチとPCやスマホに対抗しうるようなアイデアを備えさせ、また次回の機会に頒布できたらなと思います。

なお、この星座早見盤は細かなこだわりが細部にあり、それは母盤(実際に星座が書いてある回転する円盤)において特に顕著です。以下につらつらと垂れ流していきますので、よろしければお付き合いくださいm(_ _)m。

まず星の座標と明るさですが、座標に関しては元期2000年の輝星表(Bright Star Catalog 5)に収録されている恒星のうち、視等級の明示がありかつ6.5等級未満のものを採用しています。
それでも膨大な数の星になり見づらくなってしまうため、 星の明るさを大きさで表現することにしました(ありがちな対処です)。まず見かけ上最も明るい恒星シリウスの等級を1とし、6.5等級を0とした上で等級を比率で表し、その比率を定数乗して半径係数を掛けることで暗くなるにつれ小さくしていく、という手法をとっています。つまりこの星座早見盤ではシリウスが最大です。

次に、星の色に関してです。アステリズムを結ぶ線や星座の名前などが鮮やかなのでさほど目立ちませんが、これは輝星表に併記されているB-V色指数から着色しています。プログラム化することで数千に上る星々に逐一色を指定する手間が省け、かつ恣意的な色判断を避けることができています。

3つめに星座に関してです。星座早見盤ですからこれが主体と言ってもおかしくありません。まず形状については多く支持された形状を適応したいものです…とはいってもこれが難しく、幸いIAU(国際天文学連合)に形状と星の対応が明記されてる資料がありましたので、こちらの採用を決定しました。次に星座を結ぶ線についてです。これはご購入時にも説明申し上げたことですが、大圏航路化することで母盤外周に近い星座でも描画が可能になっています。北緯35°ではあまり意識しない部分ですが、ただの直線で描画してしまうと、近い所ではIAU準拠のりゅうこつ座(シリウスの次に明るいカノープスのある星座)がぐちゃぐちゃになってしまいます。そもそも母盤自体が夜空を円盤に押し詰めている座標変換なのでこの問題が生じるのですが、 大圏航路化することで星座の線も星と同時に座標変換することになり、自然な描画が可能となりました。

4つめが最後まで先送りにされた問題で、これが天の川です。まず全天図でかつ球面座標上に正しい傾斜角で描画された写真がみつからず、じゃあ人様の星座早見盤の天の川を参考にするかと言ってもどれが一番正確なのかを調べる手段がありません。これはもう無くていいのではないかと考えていたのですが、球面座標を会得した今、銀河座標上での天の川全天図であれば母盤(赤道座標)上への加工が自分でも可能なのではないか?と考えたのが転機でした。最も情報量の多い写真を探してネットの海をさすらい、たどり着いたのが、クリエイティブ・コモンズ ライセンスにより公開されているヨーロッパ南天天文台提供の天の川全天図( 原典: http://www.eso.org/public/images/eso0932a/ )でした。これは6000x3000pxの巨大な写真です。情報量として申し分ないと判断し挑戦することにしました。画像操作ということでこれが初めてPythonに触れる機会となり、元画像から1ドットずつ色を取り出して球面座表上に再プロットしていくスクリプトを作成しました。
結果は成功で、いびつに曲がった星座早見盤向けの天の川が想像通りに描画されました。ただ少し残念なのが、銀河中心が射手座にあることもあってか北半球では天の川があまり目立たない、というところでしょうか(笑)。これは自然現象なのでもうどうにもできないところです。その分南半球向けの母盤では見事な天の川を魅せてくれます。

5つめが外周の日付ダイヤルです。1周で1年ですが、だからといって率直に外周を365.2422で割って1日ごとに目盛りをつけると、現実とはズレた夜空になってしまいます。なぜか?
太陽が天球上を動く速度は変化します。これは主に地球の公転軌道が楕円であることと黄道傾斜角に由来します。それを考慮した太陽黄経の近似算出式が海上保安庁から提供されており、それを適応することでより現実に近い目盛りの割当てが可能になりました。黄道上の太陽の位置も同じ要領でプロットされています。実際に市販の星座早見盤で確かめると、春分や秋分などの二分二至の日付と位置が正しく対応していないのが確認できます。
最後に、これは母盤ではなく、手前のカバー外周の時刻ダイヤルです。通常は1周24時間(1440分)ですが、これも1440等分して分目盛りをつけるとズレます。これは24時間というのが星空が1周する時間ではなく、太陽が1周する時間であるためです。つまり時刻ダイヤルを1周させたら夜空も1日分進めなければいけません。というわけで、時刻ダイヤルの
1周 + 1/365.2422周
が1日となり、これを1440等分してあります。
ぴったり1周ではなくなったので、頂点にある深夜0:00目盛りはその日の始まりの0:00AMとなり、翌日の0:00AMは今日の12:00PM(24:00)として別に考える必要ができてしまいました。しかしこの補正を施すことで、12:00PM(24:00)には見事に次の日の目盛り上に0:00AMが来ていることが確認できると思います。
(ここで先ほど1日が1/365.2422年ではないと書いたことと矛盾しているように感じられますが、時刻ダイヤルは1日ごとに目盛りが更新されるため大きな問題とはなりません。一方で日付ダイヤルは1日ごとの僅かなズレが蓄積し目盛りに反映されるため、目に見えて大きな問題となります。)

以上のように些細ですが込み入ったポイントが随所にあり、その分この星座早見盤には少なくない愛着が湧いています。

 

カレンダーの方は、デザイン重視だった去年よりも占い色を前面に出し、サイズを縮小、見た目も整然とさせ実用性を重視する方向で制作しました。
もとより九星気学を会得していない方々にも軽い気持ちで使っていただけるように「開運攻略カレンダー」と銘打ちましたが、名前はなかなか気に入っています(笑)。
再び言い訳がましくなってしまいますが、販促活動が全くできておらず、また説明の仕方や展示環境等あらゆるコンディションに懸念があり、このカレンダー本来のポテンシャルをほとんどアピールできなかったと感じています。
夏に2018年のカレンダーということで些か早急な部分もありますし、彼とじっくり見つめ合い話し合い、冬には完全なコンディションで引っさげて行きたいと切に望んでおります。

以上、私事を中心とした簡潔な総括でございました。
最後になりますが、本日、当サークルの制作物に手を伸ばしていただいた方々、ご購入いただいた方々に改めて御礼を申し上げます。ありがとうございましたm(_ _)m

1件のコメント

  1. […] 星座早見盤は前回同様(https://plugman.me/2017/08/13/14/)の内容に加え、多少の変更を施しています。 前回には前回のいいところがあるため、改良とは言い切れません。 […]

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